學名(学名)が生まれた當時(当時)から ラテン語(羅典語)を母國語(母国語)とする國(国)はなく、
中立であると考へられた爲(考えられた為)、學名(学名)にはラテン語が使はれてゐる(使われている)。
そんな學名(学名)を讀める(読める)やうに(ように)、ここでは ラテン語の讀み方(読み方)について簡單(簡単)に説明する。
ラテン語に使はれる(使われる)文字は、A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U V X Y Z の25文字。Wの文字はない。
學名(学名)にWの文字が使はれてゐたら(使われていたら)、それは固有名詞に由來(由来)する言葉である可能性が高い。
記號(記号)の名前は 以下の通り。(英語でいふ(いう)ところの「エー・ビー・シー」)
アー(A) | ベー(B) | ケー(C) | デー(D) | エー(E) | エフ(F) | ゲー(G) | ハー(H) | |
イー(I) | イー(J) | カー(K) | エル(L)※1 | エム(M) | エン(N)※2 | オー(O) | ペー(P) | |
クー(Q) | エル(R)※1 | エス(S) | テー(T) | ウー(U) | ウー(V) | イクス(X) | ユー(Y) | ゼータ(Z) |
母音はAEIOUY、それぞれアエイオウユと讀む(読む)。Yは完全なユではなく、ユとイの中間的な音。
子音+母音の 最も近いであらう(あろう)日本語讀み(読み)は 以下の通り。
B | (ブ) | +母音 | → | バ、ベ、ビ、ボ、ブ、ビュ。 |
C | (ク) | +母音 | → | カ、ケ、キ、コ、ク、キュ。 |
Cは常に英語のKの音。スやチのような音にはならない。 | ||||
D | (ドゥ) | +母音 | → | ダ、デ、ディ、ド、ドゥ、デュ。 |
F | (フ) | +母音 | → | ファ、フェ、フィ、フォ、フ、(フュ)。 |
G | (グ) | +母音 | → | ガ、ゲ、ギ、ゴ、グ、ギュ。 |
ジのような音にはならない。 | ||||
H | (フ) | +母音 | → | ハ、ヘ、ヒ、ホ、フ、ヒュ。 |
J | (イ) | +母音 | → | ヤ、イェ、(イ)、ヨ、ユ、(イュ)。 |
Jは常に英語のYの音、母音間ではラテン語のJJの音※3 になる。 | ||||
L | (ル) | +母音 | → | ラ、レ、リ、ロ、ル、リュ。 |
K | (ク) | +母音 | → | カ、ケ、キ、コ、ク、キュ。 |
C+母音と同じ。Cと同じ音である爲(為)、Kはほとんど使はれない(使われない)。 | ||||
M | (ム) | +母音 | → | マ、メ、ミ、モ、ム、ミュ。 |
N | (ン) | +母音 | → | ナ、ネ、ニ、ノ、ヌ、ニュ。 |
P | (プ) | +母音 | → | パ、ペ、ピ、ポ、プ、ピュ。 |
Q | +U | +母音 | → | クワ、クウェ、クウィ、クウォ、(クウゥ、クウュ)。 |
Qの後ろは必ずUで、QUで英語のKWの音(ラテン語のCVの音)になる。 | ||||
R | (ル) | +母音 | → | ラ、レ、リ、ロ、ル、ルュ。 |
Rの音は英語同樣(同様)、卷き舌(巻き舌)で發音(発音)する。 | ||||
S | (ス) | +母音 | → | スァ、スェ、スィ、スォ、ス、シュ。 |
Zのように濁らず、Sは常に清音。 | ||||
T | (ト) | +母音 | → | タ、テ、ティ、ト、トゥ、テュ。 |
ツやチのような音にはならない。 | ||||
V | (ウ) | +母音 | → | ワ、ウェ、ウィ、ウォ、ウゥ、(ウュ)。 |
Vは常に英語のWの音。 | ||||
X | (クス) | +母音 | → | クスァ、クスェ、クスィ、クスォ、クス、クシュ。 |
Xは常に英語のKSの音(ラテン語のCSの音)。 | ||||
Z | (ズ) | +母音 | → | ザ、ゼ、ズィ、ズォ、ズ、ズュ。 |
BS・BTは、Bが清音となり それぞれ ラテン語のPS・PTの音(プス・プト)になる。
GUは、ラテン語のGVの音(グウ)になる。
SUは、ラテン語のSVの音(スウ)になることもある。
CH・RH・TH・PHは、それぞれ クフ・ルフ・トゥフ・プフの音だが フ(H)ははっきりした音ではないので、
フ(H)の音を無視して讀んでも(読んでも)問題はないだらう(だろう)。
PHについては、Fの音(フ)で讀まれる(読まれる)こともあるやう(よう)だが、よりラテン語的な發音(発音)はプフである。
ラテン語の讀み方(読み方)はローマ字讀み(読み)に近い。
例へば(例えば)、AEはアエ(アェ)。LLはルル(ッル)、日本語のルではなく Lの音が2囘(2回)である點(点)に注意。
「Amate libellulas.」なら、アマーテ・リベッルラース(リベルルラース)。
愛する(命令形 複數(複数))+トンボ(複數對格(複数対格))。
「Anax parthenope julius」なら、アナクス・パルテノペ(パルトゥヘノペ)・ユーリウス。
ギンヤンマの學名(学名)。
「Sympetrum frequens」なら、シュンペトゥルム・フレクウェーンス。
アキアカネの學名(学名)。
「Tanypteryx pryeri」なら、タニュプテルュクス・プライヤーイ。
ムカシヤンマの學名(学名)。Pryerは人名。
「Rhionaeschna obscura」なら、リオナエスクナ(ルヒオナエスクフナ)・オプスクラ。
學名(学名)、ヤンマ科の一種。
「Megalestes major」なら、メガレステス・マイヨル。
學名(学名)、ミナミアオイトトンボ科[みなみあをいととんぼ科]Synlestidaeの一種。
長音は「ー」で表したが、ラテン語では日本語のやうに(ように)長くは伸ばさない。(氣持ち(気持ち)伸ばすくらゐ(くらい)の意識で)
固有名詞に由來(由来)する學名(学名)は、ラテン語讀み(読み)よりも その元々の發音(発音)を優先させる。
母音には長音と短音があるが、それを知るには、ラテン語に慣れるか、辭書(辞書)で調べるかしかない。
ラテン語の本を書店で目にすることは さうさう(そうそう)ないと思ふ(思う)が、インターネットで注文すれば割と簡單(簡単)に手に入る。
ラテン語のアクセントは、單語(単語)の後ろから3番目までの母音(音節)につく。
母音が1つの場合はその母音に、母音が2つの場合は後ろから2番目の母音に。
母音が3つ以上あり かつ 後ろから2番目の母音が長音でない場合は 後ろから3番目の母音に、
母音が3つ以上あり かつ 後ろから2番目の母音が長音である場合は その母音(後ろから2番目の長音の母音)につく。
ただし、二重母音(複母音)と呼ばれるAE・AU・OE・EI・EU・UIの組み合はせ(合わせ)は、2文字でも1つと數へ(数え)られる。(二重母音の組み合わせでも二重母音でないものもある。)
もの や こと を表す「res(rēs)」なら、rés、讀み(読み)は レース。(´がアクセント、‾は長音。)
基數詞(基数詞)の1を表す「unus(ūnus)」なら、únus、讀み(読み)は ウーヌス。
日本を表す「Japonia(Japōnia)」なら、Japónia、讀み(読み)は ヤポーニア。
ヨーロッパを表す「Europa(Eurōpa)」なら、Európa、讀み(読み)は エウローパ(エゥローパ)。
「Amate libellulas(Amāte libellulās)」なら、Amáte libéllulas。
「libellulae(長音なし))」「Julius(Jūlius)」なら、それぞれ、libéllulae、Július。
JはIが變化(変化)したもの、同じく、UはVが變化(変化)したもの。
(母音間のIがII(=IJ)の音になったり、GUがGVの音になったりするのは、子音と母音の區別(区別)がなかった頃の名殘り(名残り)であると思はれる(思われる)。)
GもCが變化(変化)したもの(Cは昔 Gの音だった)。Kは、CとGが區別(区別)されるやうに(ように)なったことで 使はれ(使われ)なくなったらしい。
ラテン語の場合、J・Uの代わりにI・Vを使って、libellulaをlibellvla、juliusをivlivs、majorをmaiorと綴っても間違ひ(間違い)ではない。
Gの代はり(代わり)に Cが使はれる(使われる)ことはあまりないが、Gaius(=Gajus)をCaiusと表記することは よくあるらしい。
Gaiusとは ローマの人名、特に Gaius Julius Caesarを指すことが多い。
Gaius Julius Caesar(=CAIVS IVLIVS CAESAR)は 古代ローマの政治家であり將軍(将軍)であった人物。
讀み(読み)は ガーイユス・ユーリウス・カエサル。ジュリアス・シーザーは英語讀み(読み)。ガリア戰記(戦記)の著者。
暗殺された時の「Et tu, Brute?(=ブルートゥスよ、お前もか)」といふ(いう)セリフが有名だが、本人が實際(実際)に言ったかどうかは不明。(BruteはBrutusの呼格形)
LIBELLVLA・IVLIVS・MAIORのように、小文字を使はずに(使わずに)書かれることもある。(最初は大文字しか存在しなかった爲(為))
學名(学名)の場合は、ラテン語とは文字の扱ひ方(扱い方)が違ふ(違う)ので、JやUが使はれ(使われ)なかったり、全部大文字で書かれたりすることは、基本的にはない。
學名(学名)の命名者名に使はれる(使われる)ことのある、inとet。(andは英語。)
これらのラテン語の意味は、in:「〜の中で/へ」「〜の上で」、et:「〜と(英andに同じ)」「そして」。
ラテン語とは
ラテン語は、ローマ帝國(帝国)の共通語として 廣く(広く)使はれてゐた(使われていた)言語である。
廣い(広い)地域で使はれてゐた爲(使われていた為)、發音(発音)が 完全に統一されてゐる譯(いる訳)ではない。
(絶對的(絶対的)な發音(発音)は 存在しない。)
上に記したものは、古典ラテン語と言はれる(言われる)もの。
ミサ曲(キリスト教の典禮曲(典礼曲))では、イタリア式の發音(発音)や、ドイツ式の發音(発音)が使はれる(使われる)ことが多い。
現在は バチカン市國(市国)の公用語とされてゐる(いる)だけで、ラテン語を母國語(母国語)とする國(国)はない。
その 中立性から 學名(学名)に使はれるやう(使われるように)になったのだが、宗教的な側面から見ると キリスト教との繋がりが深いことも事實(事実)で、
そこを踏まへると(踏まえると)中立だとは言ひ(言い)切れない。
(キリスト教はローマ帝國(帝国)時代に廣まった(広まった)宗教なので、深い關はり(関わり)が生まれて當然(当然)だったのであらう(あろう)が。)
普段 耳にすることは 全くと言っていゝほど(いいほど)ないラテン語だが、生物學(生物学)や醫學(医学)など 古くから研究されてきた分野では、
今でもラテン語が深く殘って(残って)ゐて(いて)(特にヨーロッパでは)大きな役割を果たしてゐる(いる)。
ただ、殘念(残念)ながら 日本では ラテン語に關する(関する)情報が(ヨーロッパに比べると)乏しいやうで(ようで)、
教科書には 堂々と 英語讀み(読み)のカタカナ表記が載ってをり(おり)、
專門家(専門家)の中にも 學名(学名)をラテン語讀み(読み)しない者もゐる(いる)と聞く。
又、一般に 英語讀み(読み)で廣まって(広まって)しまってゐる(いる)學名(学名)も多い。
有名なところだと、恐龍(恐竜)の ティラノサウルス・レックス(=Tyrannosaurus rex、テュランノサウルス・レクス)や、
植物では アオイ科のハイビスカス屬(ハイビスカス属(=Hibiscus、ヒビスクス、和名はフヨウ屬(フヨウ属))など。
學名(学名)ではないが、etc.(エトセトラ)は 元々はラテン語の et cetera(エト・ケテラ、"and その他"の意)。
午前と午後を表す a.m.とp.m.も、ラテン語の ante(〜の前)meridiem(正午、南 [對格(対格)])、post(〜の後)meridiem が語源である。
ちなみに、現在 事實上(事実上)の世界共通語となっている英語も、ラテン語の影響をかなり受けてゐる(いる)。(英語は、ラテン語の母とドイツ語の父の間に生まれた言語、と表現されることもある。)
ラテン語にはある、格變化(格変化)(ラテン語の場合は第一〜第五變化(変化)まである)や名詞の性、動詞の人稱變化(人称変化)などが
英語には ほとんどないが、ヨーロッパの言語には格變化(格変化)や性、人稱變化(人称変化)があるものが多く、さう(そう)ではない英語は かなり特異な言語だと言へる(言える)。
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